第295号  29年3月号  大川 澄雄

 弥生三月、誠に月日の経つのは早いものでございますね。
 皆様におかれましては、ご多忙の中にもお健やかで在られますことに、謹んでお喜びを申し上げます。
 さて、私共稲作農家と致しましては一気に農作業に突入致します。長い積雪の間動かすことのなかった身体、なかなか仕事に付いて行けないのもこの季節、急に忙しくなる大潟村でございますが、今しばし春に向う村ならではの自然を辿ってみたいと思います。

 雪解け水に映る紺青の空が不気味、そして茫洋たる水田へ・・・・
何しろ日本第二の広大なみずうみを干拓して出来上がった1万6千ヘクタールの大地。高低差もまったく無い、もちろん山も谷も無い果てしない平野を雪が一面に覆う様は、まるで地球が白一色染まったように見事な景色でございます。でも、その様も三月となりますと気温が上がりまして一気に雪解けが始まる訳です。
一気に進む広大な平野の雪解け、その雪解け水が掃ききらず、まるで、かの八郎潟のみずうみに還ったように見渡す限りの湛水となる事もしばしばございます。春、まさに紺青の空を水に映して青々とする様は綺麗さを越して吸い込まれそうで、不気味にさえ見えて参ります。そして、徐々に水が引きまして茫洋たる水田が出現するのでございます。

 遠く陽炎に揺らぐ世界遺産「白神山地」そして雪の果て・・・・
 遠くに真っ白く凍てつく「白神山地」の峰々、紺青の空と相まって、それはそれは綺麗に存在を示しております。そんな山々も裾野から雪解けが始まったのでしょう。山全体が浮いたように見え始めるのです。三月も中ほどになりますと、ゆらゆら揺れ始める訳でございます。まさに一気に上昇する気流「陽炎」の精です。そして見失うほど霞んでしまいます。これも雪が去りゆく季節、寂しいものでございます。
 まさにこの陽炎の揺れは干拓地特有の現象でありましょうか、少し離れて作業している農婦の腰を千切れる程揺らします。そして田も畑も一気に乾いていく訳であります。

 北限と言われる「やぶ椿」が咲き乱れる男鹿の海岸、そして蕗のとうも・・・・。
やぶ椿の開花、秋田は三月がもっとも美しい季節でしょうか、暖流に乗り男鹿半島に漂着した種が自然に芽吹き広がったと言われる「北限の椿」(実際は青森までもその北限があるようですが・・・)。前にもお伝えしましたように、悲恋物語などが残るその可憐さは、待ちにまった開花が一気に噴き出した美しさと言っても過言ではありません。
 
 急に村に訪れる春の自然の一コマを「一気」の言葉を使いまして紹介いたしましたが、「百聞は一見に如かず」是非大潟村へお出で下さいませ。お待ち致しております。

今月の一句
風花や 地に着くまえに すっと消え